突然の時間突然の時間それはいつも突然なんの前触れもなくやってくる・・・・・。 忘れかけたあの頃を思い出すように。 何度も出逢いと別れを経験してきたけどその両方にいまだに慣れないでいる。 心の隙をついたようにあなたは私の中に入り込んできた静かにそしてゆるやかに・・・。 1人という時間を持て余すことなく過ごせるようになった私は、自分時間を大いに楽しんでいた。 仕事から帰れば何をするでもなく気の向くままにテレビを見たり本を読んだりそれとなく自分の時間を過ごせることができた。 テレビでは、事件や事故政治の話なんかしてるけど興味ない。部屋の外では車のエンジン音が轟いてる。時折急発進や急ブレーキの音も聞こえるが私には関係のない世界だ。 この1人の時間がたまらなく好きになっていく。他人との煩わしい時間がバカバカしくも思えてきてしょうがない。ゆっくりと私だけに流れる時間を誰にも邪魔されたくはなかったけど忍び寄る足音に気がつかずにいた。 毎朝ほぼ同じ時間に家を出て最寄りの駅まで歩く、そんなに混んでるわけではないけどやっぱり通勤ラッシュは存在する。 ぶつかり合うカバンやバッグ、肩や背中までもがぶつかり合う。 流れに押されないように必死で何かにつかまり立っている私がいる。いつも同じ場所で同じ人たちに囲まれてこの時間を過ごしている。 電車を降りれば会社まではすぐだった。 同じような毎日をただ何となく過ごし同僚の誘いを断り私の場所に戻ってくる。これが私の1日の流れだ。 その流れが変わることないと信じていたが無情にも私鉄のダイヤ改正と季節の変化とともに変わってしまった。 以前よりも少しだけど遅く家を出て駅に向かう、乗るはずの車両、場所そこは見慣れた顔と見慣れない顔が入り乱れていた。 私の場所には知らない人が立っていた。本当ならここには私がいたのに、この時間には先約がいた。自分の居場所をなくし仕方なしに傍に立つがつかまるものがない、次の駅に着くと開いたドアに人波が押し寄せてくる。 この流れに乗ってしまったら戻れない・・・・。必死に流されまいと何かを掴んだ。掴んだものが何だったのかはわからなかったけどそのモノは私を確実に車内の中に留めておいてくれた。 流れが去ったあとそれが何だったのか確認するために自分の腕のほうに顔を向ける。 そこには先約の知らない人の腕を握りしめた私の手があった。 顔をおそるおそるあげると少し迷惑そうな顔が見えた。 「すみません・・・・。」 そう一言しか言えなかった。それが精一杯だった。 「いい加減離してくれない?その手」 不意に言われた言葉に驚いてすぐさま手を離し再び 「すみません・・・・。」 の一言。 我にかえって自分のとった行動に思わず体中が熱くなっていくのが感じられた。降り立つ駅までの時間が途方もなく長く感じられた日だった。 今朝の余韻を引きずったまま帰宅しその名も知らない人の顔が浮かんでは消え浮かんでは消える。私にもわからないこの感覚。 ベッドにもぐり込むも思い出されるのは迷惑そうな顔の人だった。 翌朝は、寝たか眠らないかわからないほどに頭がぼうーっとしていた。 気だるさを引きずりながらまたあの電車へ乗り込む。 今日もあの先約のひとはいる。 一瞬目があったが小さくうなずく程度に会釈をして昨日と同じ位置に立つ。 そして電車は走り出す。あの駅に向かって・・・・・。 あの駅に着く前に私の身の置き場所を考えた。昨日と同じことはしないために・・・。 電車のドアが開いたかどうかわからないその時私は腕を掴まれ降りる人の波に押されずにすんだ。 掴んだ腕の犯人は昨日私が腕を掴んだ人だった。 その人は一言 「昨日のお返し。」 とだけ言った。その言葉がおかしかったのか彼の行動がおかしかったのかわからないけど思わず小さくクスクスと笑ってしまった。 その小さな変化の日からこの通勤ラッシュの時間帯だけは1人ではなく2人の時間になった。決まったように傍に立ちあの駅の手前でギュッと手を握り合う。 まるでこの世界から2人が離れ離れになってしまわないようにそれは優しく暖かい少し大きな手だった。 ここ3日ほど彼の姿が見えない。いつもの時間いつもの場所なに1つ変わらないはずなのに彼の姿が見えない。急に1人になった不安に襲われ見慣れた景色さえも色あせていく、1人に慣れたつもりだったけどそれは間違いだったのかもしれない知らず知らずのうちに彼にひかれていく私がいた。 知っている事は私より先に乗っていて私より後に降りていくということだけ。 どこに住んでいるのかも、何をしているかも知らない。 知ろうとも思わなかった知る必要もなかった。 彼がいないことに気がついて私が彼に好意を持っていることに気付かされた。 もっと早くに気がついてれば・・・・・。 こんなに悲しくもなかっただろうし心配さえもしなかった今どこにいるの、私はここにいるいつもの場所であなたを待っている。 お願い、傍に来て。そしていつものように手を握ってほしい。 もっとあなたの事が知りたい。 私の気持ちなのに私には止められない。勝手にあなたの事が好きになっていく、どんどん私の心を占領していく。 はにかんだ笑顔、眠そうな顔、初めて逢った時の迷惑そうな顔そのどれもが今では思い出になる。 あなたが恋しい。 出逢って、別れてそしてまた出逢う。 私はこんな出逢いと別れをあと何度繰り返せばいいのだろう。 もしも、神様がいるのならもう1度あなたと逢わせてほしい・・・・。 あの頃に戻りたいとは言いません。出逢った時私は私の気持ちを伝えます。 「あなたの事が好きです。」ってね。 それは突然やってくる。何の前触れもなく静かにそしてゆっくりと・・・・。 |